人間の想像と実現と実在と空想

イケおじさまの図

フランスのSF作家は言った。
「人間が想像出来る事は、人間は必ず実現出来る」───ジュール・ヴェルヌ

確かにある分野ではそうだろう。想像出来ないものを具現化する事は出来ない。
しかし、想像出来るから実現出来る、と単純にイコールで結ばれるばかりではないのである。

絵を描き始める時、私は「こういう感じの仕上がりで…」とまず夢想する。落書き以外は、見切り発車で描く事はあまりない。
先にご覧いただいた【イケおじさまの図】は、ピカソの「海辺の母子像」みたいな色使いで、尚且つ「シチリアにいそうなマフィア」みたいにしようと思っていた。
結果としてはご覧の通りで、マフィアはまだしも、ピカソ感はどこにもなくなってしまった。
これは脱臼マンの仕上がりイメージがふわふわすぎる事を意味している。良くも悪くもである。
徹頭徹尾「海辺の母子像」をパクろうと思っていたら、まず画面を黄色く塗るだろう。そこへマットな青を足していくはずである。ところがこの絵、今見返すに、恐らく塗り始めた段階で「海辺の母子像」の事をすっかり忘れている。辛うじてシチリアのマフィアについては足掻いた形跡があるが、これも恐らくろくに資料を見ていまい。

日頃、よそのヒカセンさんを描かせてもらう時は、基本的には脳内設定のある方や、RPerさんを対象にしている。
それぞれのヒカセンのイメージや設定、はたまたお話しさせて頂くプレイヤーさんの印象がパワー的なものとなり、私の描く絵と上手く融合したりして、描き手である私の想像以上のものが出来上がったりするのである。正直かなりそれが楽しい。人間は想像した以上の事が出来る……時もある。

この絵は、先述したそれぞれのヒカセンからもらえるパワー的なものがない場合、私は描いていて楽しいのだろうか?どのくらいクオリティは下がるのか?検証した絵である。
こちらのイケおじさまには、スクショだけをお借りした。

イケおじさま線画

結論だけ言うとですよ??
おじさまはどう描いても楽しい。

楽しいんです。
多分このおじさま、シチリアのマフィアではないでしょう。ゲーム内ではよく死者を弔うのに用いるニメーヤリリーを持ってもらっていますが、もしかしたら他に好きな花があるかも知れないし、本当は健康に気を遣っていて葉巻なんて吸わないかも知れない。
脱臼マンの好きにして良いという面では、確かに楽しい。
ただ、やはりモデルさん自体の熱意とか、キャラクターへの愛とかに触れたのと触れないのとではまるで違う。
例えるなら薬味をつけずに啜る蕎麦のようだ。
絶対に薬味があった方が美味しい。

このおじさまも縁があればいつか脳内設定等を聞いてみたい。きっと全く違う絵になるだろう。
人間は想像出来る事は必ず実現出来る。そうかも知れない。
だが、「そこのお前!人間ひとりが想像出来る事は人間ひとりが想像出来る分だぜ!」ということなのだ。

ひとりで作った絵も良いが、誰かの脳を借りて作った絵の方がもっと良い。そんな検証結果を得られたのであった。感謝。


話しは全く変わるが、昔妖怪を見た事がある。信じてくれなくても構わないが、一度文章にしてみたかったので、ここに残しておく。
梅雨の時期だった。夕方に差し掛かろうとしている時間帯であったが、外はまだ明るかった。糸のような小雨が降っていて、私は傘を差して俯いて家路についていた。家までは緩やかな上り坂で、右手にはちょっとした生け垣、左手は車道。辺りは閑静な住宅街である。中途半端な時間なのもあって人気はなく、小雨が傘の布地を細かく打つ音が聞こえていた。
ふと僅かに視線を上げると、少し前方に、テニスボールくらいの毛玉が跳ねていた。ぽーん、ぽーん、と軽快に跳ねながら、私と同じ方向に進んでいる。
私は最初、リスだと思った。当時、タイワンリスが害獣として問題になっていたからである。ちょうど、タイワンリスのふわふわした尻尾、そんな感じだった。しかしよく見ると、それは完全に球体なのである。
(なんだこれ?)
如何せん、ただの毛玉であるから、怖くはない。私はその毛玉の後ろを歩く形で、まじまじとそれを見下ろしていた。
イメージ的には、まっくろく○すけとか、ああいう感じである。ぽーん、ぽーん、と跳ねながら私の前を進んでいく。
しばらく追従しつつ観察していたが、不意に、球体がくるっ!と私を振り返った。目や口はなかったが、目があった気がした。途端に毛玉ははっと焦った様子で方向転換し、ザッと右手の生け垣に突っ込んで姿を消してしまった。
普通に考えると、毛玉だと思ったのは私の見間違いで、相手はただのタイワンリスだったのだろう。だが、毛玉に見えていた瞬間と、(なんだこれ?)と思った瞬間は、それが事実だった。こういう真実ではない各々の事実が、たくさんの妖怪や不思議な話を生み出したのだろう。
そう考えると、とても良い思い出になっているのだった。あの妖怪は私の世界には存在しているのである。
なんかいつもと違う様子になっちゃったけどおわり